国際連合は,21世紀への期待をこめて,2000年を「国際平和年」としました.そして,その時代を担うことになる子どもたちのために,まず2001年から2010年までを「世界の子どもたちに平和と非暴力を」提供していく10年として,その取り組みを強めることを呼びかけています.それは貧困をなくしていく10年の取り組みの中間年とも重なっています.
 事態の改善は困難を極めています.宇宙系の中で地球に,自然系の中で生命に,社会系の中で人間に,それぞれ共進化上の困難が増大しています.人口の急減と急増の下で高齢化が進むにもかかわらず,利潤最優先に基づく支配の拡大・強化が貧富の格差を極大化し,資源の資源である水,土地,空気の汚染濃縮は生命の生命である始原生殖細胞やゲノムレベルにまで負の影響を与え始めています.
 すべての人間がおかれている発達の危機は,それであるが故に,何を解明し,何を大切にし,何を解決していかなければならないかを,人類史の課題として示してきています.どんなに困難であっても,人間が引き起こしてきた誤りを改める努力を人間が怠ってはならない時がきているのです.責任を明らかにし,反省と謝罪と,真実をもとにした和解と前進のできる人間として共同して発達していく時に,事態は多くの成果をもたらしつつ解決していくことでしょう.
 国際連合および関係機関において,21世紀へ向けて採択された「高等教育の世界宣言」(1998)や「科学と科学的知識の利用に関する宣言」(1999),「平和の文化に関する宣言」(1999)などにみられるように,21世紀の教育,科学,文化は,そのすべてにわたって“平和”と“安全”そして“発達”を保障していくものになっていくことが課題として提起されています.
 そこで実現する自由として,“差別からの自由”,“貧困からの自由”,“人間としての潜在能力を発達させる自由”,“恐怖からの自由”,“不正および法の支配に対する侵害からの自由”,“意思決定に参加する自由,思想および表現の自由,結社の自由”,”搾取のない,まともな仕事に従事する自由”が提起されていることは重要です.
 それを実現していくために,新たな問題が引き起こされつつある人間の発達には,21世紀へ向けた学術の発展をふまえて,例えば,次のような面からのアプローチと結ぶことが必要となってきています.

 宇宙の進化の中で,発達する人間を構成している物質とその働きはどのようにもたらされてきたのか.地球の進化の中で生命はどのように進化をしてきたのか.ゲノム分析からわかる地球環境のあるべき姿と人間発達のこれからについて,どのようなことがわかってきたのか.これからどうしていくことが必要か.
 激動の生態系の下で,21世紀に目指されているPeaceとDevelopmentを,どのように認識し,どのように実現していったらよいのか.日本の発達の概念はどのように発達をしてきて,国際的な権利概念としてのdevelopmentとの間に,どのような共通性と違いがつくられてきたのか.そこからどのような教訓を引き出して,実践にとりくんでいったらよいのか.
 類的,社会的存在として発達する人間は,なぜ,集団と個人の関係に苦悩するのか.発達の原動力が教育的発達の源泉を発達保障の立場から組織して人格を形成をしていく際に,必要な基本原則と基本的なあり方はどのようなものか.それは発達に障害がある場合や高齢の場合も含めて,人類を新しい時代の人類に変え,人権などの歴史をどのように創造していくことになるのか.

 それにしても,生きている人間が生きている人間を総合的,科学的に認識し,人間が,人間を,人間にしていく,最も人間的な営みを抜きにしては,発達を保障していくための人間発達の研究は進んでいきません.実践的検証に価する取り組みの中で,生きている人のすべてが,例外なく発達の光を放ち,民主主義の光となっていきます.
 アジアの人たち,そして世界の人たちと協力をして,発達研究と発達保障を進める世紀が来ています.志を共に,足を地に,自由を胸に,手を結んで,総力を発揮して,困難な時代を人間の発達を大切にする時代に変えていくために力を合わせましょう.
 多くの,さまざまな分野からの,いろいろな立場が,事実をもとに切磋琢磨しあえる研究所として,その活動が活発になっていくために,多くの方がたがご参加くださり,お力添えをくださいますように,心からお願い申し上げます.
                                      
                2001年10月10日 田中昌人(初代所長) 

21世紀の発達研究を共に